働きながらの年金、止まる基準は2026年4月から月51万円→65万円になりました|9月1日に在職していれば10月分から年金額が増えます

60代後半になっても働き続けたいと考えるとき、真っ先に気になるのは「稼いだせいで年金が止まるのではないか」という点だと思います。どこまでなら止まらないのか、その線がはっきりしないまま働き方を決めるのは落ち着かないものです。
日本年金機構の案内によると、その線は2026年(令和8年)4月から月51万円から65万円に引き上げられました。給与と老齢厚生年金の合計が月65万円以下なら全額支給で、超えた場合も超えた分の2分の1が止まる仕組みです。まずこの65万円という数字を押さえるところから始まります。
1. 引き上げは2026年4月から。根拠となる法律も示されています
日本年金機構の「在職老齢年金の計算方法」のページ(2026年4月1日更新)には、「令和8年4月から在職老齢年金制度が改正されました」という見出しが設けられています。
そこには、令和7年年金制度改正法(令和7年法律第74号)に基づき、令和8年4月から、年金が減額になる基準額(賃金と老齢厚生年金の合計)が月51万円から65万円に引き上げられたと書かれています。見直しの趣旨についても、平均寿命・健康寿命が延びる中で、働き続けることを希望する高齢者の活躍を後押しし、より働きやすい仕組みとすることだと説明されています。
つまり、2026年3月までの情報をもとに「51万円を超えると止まる」と考えて働き方を抑えていた方は、いま前提が変わっています。差は月14万円です。
2. 合計が65万円以下なら全額。超えた分は2分の1が止まります
計算式は2つだけです。日本年金機構の案内では、基本月額と総報酬月額相当額との合計が65万円以下の場合は全額支給、65万円を超える場合は「基本月額 −(基本月額+総報酬月額相当額 − 65万円)÷2」とされています。
読み方としては、65万円を超えた分について、その半分が年金から差し引かれる、と捉えると理解しやすいと思います。超えた瞬間に年金が丸ごと消えるわけではありません。
ただし、下限はあります。留意事項には年金支給月額がマイナスになる場合は、老齢厚生年金(加給年金額を含む)が全額支給停止となる、と明記されています。計算の結果がマイナスになるほど報酬が高い場合は、老齢厚生年金の側は出なくなるということです。
一方で、止まらない部分もはっきり書かれています。老齢基礎年金および経過的加算額は全額支給です。在職老齢年金で調整されるのは老齢厚生年金の報酬比例部分であって、基礎年金まで止まるわけではありません。
3. 「基本月額」と「総報酬月額相当額」は定義が決まっています
この計算で使う2つの数字は、日常語の「年金」「給料」とは少しずれます。日本年金機構の定義はこうです。
基本月額は、加給年金額を除いた老齢厚生(退職共済)年金の報酬比例部分の月額です。加給年金は含めません。また、老齢基礎年金も入りません。ねんきん定期便で目にする年額をそのまま12で割ると、加給年金の分だけずれることがあります。
総報酬月額相当額は、その月の標準報酬月額に、その月以前1年間の標準賞与額の合計を12で割った額を足したものです。ここが見落とされやすい部分で、賞与が月額に均されて乗ってきます。月給だけで65万円に届かないから大丈夫、と考えていると、賞与を12で割った分が上乗せされて基準を超えることがあります。
70歳以上の方については、それぞれ「標準報酬月額に相当する額」「標準賞与額に相当する額」を使う、と書かれています。なお70歳以上の方は厚生年金保険の被保険者ではないため保険料負担はありませんが、平成19年4月以降に70歳に達した方が70歳以降も厚生年金の適用事業所に勤務している場合は、在職による支給停止が行われると別ページに明記されています。保険料を払っていないから調整の対象外、とはならないということです。
厚生年金基金に加入していた期間がある方には、別の扱いがあります。基金に加入しなかったと仮定して計算した老齢厚生年金の額をもとに基本月額を算出するとされ、代行部分は国が支払うべき年金額とみなして計算されます。
4. 65万円は固定ではありません。毎年度改定されます
もうひとつ、覚えておく価値があるのが注記の一文です。計算式の脚注には、65万円は令和8年度の支給停止調整額であり、毎年度、賃金の変動に応じて改定されると書かれています。
つまり、この65万円は「今年度の数字」です。2027年度以降の額については一次資料に具体的な記載がないため、ここでは書きません。年度が替わるタイミングで基準額を確認し直す、という付き合い方になります。
過去の受給分についても補足があります。令和4年3月以前の65歳未満の方の年金については、支給停止の計算方法が異なります。当時は28万円と47万円という別の数字を使う場合分けがあり、公式ページにはその式も併記されています。古い解説を読むときは、どの時期の計算式なのかを確かめる必要があります。
5. 9月1日に在職していれば、10月分から年金額が見直されます
ここからは、止める話ではなく増える話です。在職定時改定という仕組みがあります。
日本年金機構の説明では、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受けている65歳以上70歳未満の方が、基準日である9月1日において被保険者であるときは、翌月の10月分の年金額から見直されるとされています。見直しの中身は、年金額に反映されていない前年9月から当年8月までの厚生年金の加入期間を追加して再計算するというものです。働いた分が毎年1回、年金額に反映される仕組みだと考えると分かりやすいと思います。
基準日をまたぐ転職についても救済の記載があります。9月1日前に被保険者の資格を喪失し、そこから9月1日をまたいで1か月が経過する前に資格を取得したときは、基準日の9月1日において被保険者ではなくても、在職定時改定として年金額の再計算が行われるとされ、例として8月25日に資格喪失、9月3日に資格取得というケースが挙げられています。
ただし、注意書きも付いています。年金額が再計算された結果、支給停止額が変更となる場合があります。基本月額が増えれば合計額も上がるため、基準を超えて停止額が増えることもあるということです。増える方向と止まる方向は連動しています。
6. 退職したときは、1か月がひとつの区切りになります
退職時の扱いは退職改定と呼ばれます。日本年金機構の説明では、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受けている70歳未満の方が、退職して1か月を経過したときは、退職した翌月分の年金額から見直されるとされています。70歳に到達したときは、70歳到達の翌月分から見直されます。このとき年金額の一部または全部の支給停止がなくなり、全額が支給されることになります。
ここに、見落とすと差が出る条件があります。退職して1か月以内に再就職し、厚生年金に加入したときは、年金額の再計算は行われません。転職の間隔が短いと、退職改定の対象から外れるということです。支給停止額の変更時期についても、総報酬月額相当額が変わった月または退職日の翌月と定められたうえで、退職して1か月以内に再就職して厚生年金保険に加入した場合を除くという但し書きが付いています。
なお、支給停止となった年金が後から遡って支払われるかどうかについては、一次資料に記載がありません。公式に書かれているのは、支給停止期間が基本月額と総報酬月額相当額の合計額が65万円を超えている期間であることと、支給停止額の変更時期の規定だけです。ここは断定せず、公式の記載の範囲で押さえておくのが安全です。
7. 加入期間が20年を超えたときは、別の手続きが要ります
再計算に関する留意事項にも、行動が必要になる項目が含まれています。
まず、70歳以上の期間は厚生年金に加入していないため、年金額の再計算には反映しません。70歳を過ぎてから働いた分が年金額を押し上げることはない、ということです。
そして重要なのがこちらです。年金額の再計算により厚生年金の加入期間が20年を超えたときは、加給年金が支給される場合や、配偶者に対して振替加算が支給される場合があり、その際は別途、手続きが必要となります。自動で付くわけではなく、手続きをして初めて受け取れる類のものです。在職定時改定や退職改定で加入期間が20年に届いた方は、この点を確認しておく価値があります。
個別の金額については、日本年金機構が「在職老齢年金早見表」をPDFで公開しています。自分の基本月額と総報酬月額相当額を当てはめた停止額を確かめたい場合は、そちらで確認してください。
出典と確認時点
この記事は2026年8月5日時点で、日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」(2026年4月1日更新)および「在職中の年金(在職老齢年金制度)」の内容を確認して整理した一般的な内容です。支給停止調整額は毎年度改定されるため、令和9年度以降の額はここでは扱っていません。ご自身の年金額・報酬に基づく個別の判断については、年金事務所または「ねんきんダイヤル」へご確認ください。
要点の確認
- 令和7年年金制度改正法により、2026年(令和8年)4月から基準額が月51万円→65万円に引き上げ
- 基本月額+総報酬月額相当額が65万円以下なら全額支給、超えた場合は超過額の2分の1が停止
- 計算結果がマイナスなら老齢厚生年金は全額停止。ただし老齢基礎年金と経過的加算額は全額支給
- 総報酬月額相当額には直近1年の標準賞与額を12で割った額が含まれる(賞与が効いてくる)
- 65万円は令和8年度の額で、毎年度、賃金の変動に応じて改定される
- 65歳以上70歳未満で9月1日に被保険者なら、10月分から年金額が見直される(在職定時改定)
- 退職して1か月を経過すると翌月分から見直し。ただし1か月以内に再就職して厚生年金に加入すると再計算されない
- 再計算で加入期間が20年を超えたときの加給年金・振替加算には別途手続きが必要
ねんきん定期便と直近の給与明細を並べて、2つの数字を足してみる。それだけで、いま自分がどちら側にいるかは分かります。
支給停止調整額は毎年度改定されます。年度替わりに新しい額が公表され次第、本記事の数値を更新します。
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