年金の繰下げ、待っている間は加給年金が1円も出ません|繰上げは0.4%×月で減り、請求後は取り消せません

年金を何歳から受け取るかを調べていると、「繰下げれば増える」「繰上げれば早くもらえる」という損得の話ばかりが目に入ります。しかし本当に確認しておくべきなのは金額の増減より先に、取り消せるかどうか・もらえなくなるものがないかです。
結論から言うと、繰下げを選んで待機している間は加給年金額・振替加算額を1円も受け取れません。増額の対象にもなりません。そして繰上げは、請求した後に取り消すことができません。日本年金機構の公表情報をもとに、この2つの「戻せない」条件を具体的な数字で整理します。
1. 繰下げで待っている間、加給年金額・振替加算額は出ません
配偶者やこどもがいる人の年金には、条件を満たすと加給年金額や振替加算額が上乗せされます。ここで見落とされやすいのが、繰下げを選んだ場合の扱いです。日本年金機構は、これらの加算額について増額の対象とはならず、繰下げ待機期間中は受け取ることができませんと明記しています。
繰下げによる増額率は、老齢厚生年金・老齢基礎年金の本体部分にしか掛かりません。加給年金額・振替加算額はその計算の外にあるため、待機している間はゼロ、繰下げ請求後もそこだけは増えないまま据え置かれます。あとから遡って支給されるわけでもありません。配偶者がいて加給年金額の対象になっている人ほど、繰下げの実質的なメリットは目減りします。
老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰下げできる点も押さえておく必要があります。片方だけ先に受け取り、もう片方だけ待機するという選び方も制度上は可能です。ただし特別支給の老齢厚生年金には繰下げ制度がありません。
2. 繰下げの増額率は0.7%×月、最大84%です
増額率そのものは、0.7%×65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数で決まります。66歳から75歳までの早見表は次のとおりです。
- 66歳 … 8.4%
- 68歳 … 25.2%
- 70歳 … 42.0%
- 72歳 … 58.8%
- 75歳 … 84.0%
この増額は生涯続きます。ただし昭和27年4月1日以前生まれ(または平成29年3月31日以前に受給権が発生した人)は上限が70歳・最大42%までとなり、75歳・84%の対象にはなりません。
率が分かっても、自分の年額に当てはめないと判断材料にはなりません。自分の年額で増減率と受給額を出す
3. 待機中に増額率が固定される条件があります
繰下げを待っている間、いつまでも自由に先延ばしできるわけではありません。日本年金機構は、66歳に達した日以後の待機期間中に他の公的年金の受給権(配偶者の死亡による遺族年金など)を得た場合、その時点で増額率が固定されるとしています。固定されたあとに手続きを遅らせても、増額率はそれ以上増えません。
もう一つの上限は年齢そのものです。75歳に達した月を過ぎて請求しても増額率は増えません。増額された年金は75歳の時点まで遡って決定・支払われる扱いになります。
さらに、繰下げの申出自体ができないケースもあります。65歳の誕生日の前日から66歳の誕生日の前日までの間に障害給付・遺族給付を受け取る権利があるときは、繰下げの申出ができません(障害基礎年金のみの権利がある人は老齢厚生年金の繰下げ申出が可能など、細かな例外はあります)。
4. 待機中に亡くなった場合、遺族は代わりに申出できません
繰下げ請求は本人にしかできない手続きです。繰下げ請求は遺族が代わって行うことはできません。待機中に本人が亡くなった場合、遺族が請求できるのは未支給年金であり、その金額は65歳時点の本来の年金額で決定されます。増額を見込んで待っていた分は反映されません。
さらに、請求時点から5年以上前の年金は時効で受け取れなくなります。長く待機していた場合ほど、この時効の影響を受けやすい構造です。なお昭和27年4月2日以後生まれの人には、70歳到達日後に本来の年金をさかのぼって受け取る際、請求の5年前の日に繰下げ申出があったものとみなして増額する特例的な繰下げみなし増額制度が用意されています。
5. 繰上げは請求後に取り消せません
繰下げが「待つ側」の話なら、繰上げは「早める側」の話です。ここでの最重要ポイントは金額ではなく、繰上げ請求した後は取消しできないという一点に尽きます。減額率は0.4%×繰上げ請求月から65歳に達する日の前月までの月数で決まり、最大24%です(昭和37年4月1日以前生まれは0.5%、最大30%)。この減額は生涯変わりません。
取り消せないことに付随して、次の制約も生じます。
- 国民年金の任意加入や保険料の追納ができなくなる
- 繰上げ請求した日以後は寡婦年金が支給されない(すでに受給中の人は権利がなくなる)
- 繰上げ請求した日以後は事後重症などによる障害基礎(厚生)年金を請求できなくなる
3つ目は特に見落とされやすい条件です。治療中の病気や持病がある人は、目先の受給開始年齢だけで判断すると、あとから障害年金を選べたはずの選択肢を自ら閉じてしまうことになります。原則として老齢基礎年金と老齢厚生年金は同時に繰上げ請求する必要がある点も、繰下げとは異なる制約です。
6. 65歳になるまでの支給停止・併給の制約も残ります
繰上げ請求後、65歳になるまでの間に雇用保険の基本手当や高年齢雇用継続給付が支給される場合は、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止になります。老齢基礎年金はこの支給停止の対象外です。
また、繰上げ請求した老齢年金は65歳になるまで遺族厚生年金等と併給できず、どちらか一方を選ぶことになります。長期加入者の特例や障害者の特例措置についても、繰上げ後は受けられなくなります。取り消せないという前提を踏まえたうえで、これらの制約が自分の状況に当てはまるかを事前に確認しておく必要があります。
出典と確認時点
この記事は2026年8月5日時点で、日本年金機構「年金の繰下げ受給」「年金の繰上げ受給」の公表内容を確認して整理した一般的な内容です。個別の受給判断については、実際の請求前に年金事務所またはねんきんダイヤルへご確認ください。制度の開始年齢や早見表の全体像については、あわせて読みたい欄の記事をご参照ください。
要点の確認
- 繰下げ待機期間中は加給年金額・振替加算額を受け取れず、増額の対象にもならない
- 繰下げの増額率は0.7%×月、最大84%(75歳)。生涯続く
- 待機中に他の公的年金の受給権を得ると、その時点で増額率が固定される
- 繰下げ請求は遺族が代わって行えず、待機中の死亡時は65歳時点の額・5年時効で未支給年金になる
- 繰上げの減額率は0.4%×月、最大24%(昭和37年4月1日以前生まれは0.5%、最大30%)。生涯変わらない
- 繰上げは請求後に取り消せない。任意加入・追納不可、寡婦年金停止、事後重症などによる障害年金請求不可という条件が伴う
「何歳が得か」を計算する前に、待つ側と早める側、それぞれの「取り消せない・もらえなくなる」条件だけでも先に確認しておく価値があります。
あわせて読みたい
・国民年金・厚生年金は原則65歳から|繰上げは60歳、繰下げは75歳まで選べます
・年金生活者支援給付金は月5,620円|対象と受け取り方
・国民年金保険料の失業特例免除|対象と手続き
更新履歴:2026年8月5日 初稿公開。
コメント
コメントを投稿